大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 昭和57年(ワ)1245号 判決 1984年9月12日

原告 小出二郎

<ほか二名>

右訴訟代理人弁護士 藤沢抱一

被告 甲野一郎

<ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 二井矢敏郎

主文

一  被告らは各自原告小出二郎及び同小出キサ子各自に対し金一四、八六四、五六七円及びこれに対する昭和五七年一一月一一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告小出由美の請求を棄却する。

三  訴訟費用中原告小出二郎及び同小出キサ子と被告らとの間に生じた分は被告らの、その余の部分は原告小出由美の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告小出二郎及び原告小出キサ子各自に対し金一四、八六四、五六七円、原告小出由美に対し金二二〇〇、〇〇〇円及びこれらに対する昭和五七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

訴外小出友和(昭和五〇年一〇月一四日生、以下「友和」という。)は次の交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡した。

(一) 日時 昭和五七年三月二三日午後五時頃

(二) 場所 埼玉県南埼玉郡白岡町大字上野田七三七の八二先路上

(三) 加害車輛 普通乗用車(大宮五五に八七八〇、以下「加害車」という。)

(四) 加害車の運転者 被告甲野一郎(以下「被告一郎」という。)

(五) 態様 被告一郎の運転する加害車が、前記路上を横断中の友和に衝突した。

2  責任原因

(一) 被告一郎

(1) 被告一郎は加害車を自己のために運行の用に供していたものである。

(2) 仮に、そうでないとしても、被告一郎には次の過失がある。

(イ) 被告一郎は、制限時速三〇キロメートルのところを、時速六〇キロメートルで加害車を走行させた過失がある。

(ロ) 被告一郎は前方を注視すれば、本件事故現場の道路を横断中の友和を発見できたのにもかかわらず、これを怠った過失により、加害車を友和に衝突させ、死亡させた。

(二) 被告甲野太郎

被告甲野太郎(以下「被告太郎」という。)は、昭和五七年四月二五日、原告小出二郎(以下「原告二郎」という。)、及び同小出キサ子(以下「原告キサ子」という。)に対し、本件事故により被告一郎の負う損害賠償債務について、「どんな償いでもさせて頂きます。一生かかっても償うからお許し下さい。」と言って連帯債務を負担する旨の意思表示をし、原告二郎及び同キサ子は即時にこれを承諾した。

(三) 被告乙山春夫

被告乙山春夫(以下「被告春夫」という。)は加害車を所有し、その家族及び家族が使用を認めた者が加害車を運転することを承諾していたが、被告一郎は被告春夫の家族である訴外乙山夏夫とその母の承諾を得て加害車を運転したのであるから、被告春夫は加害車を自己のために運行の用に供していたものである。

3  損害

(一) 友和

(1) 逸失利益 三三、四〇二、九三六円

友和は本件事故当時六才の健康な男子で、本件事故にあわなければ、平均余命の範囲内で一八才から六七才まで稼働し、その間少くとも男子労働者の平均賃金程度の収入をあげ得たところ、昭和五六年度の賃金センサスによれば、男子労働者の一年間の平均給与所得は三、六三三、四〇〇円であるから、生活費としてその五〇パーセントを控除し、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除すると友和の逸失利益は三三、四〇二、九三六円となる。(計算式 別紙計算表1のとおり。)

(2) 慰謝料 八、〇〇〇、〇〇〇円

友和は健康で利発な将来性のある少年であったが、一瞬にしてその若い生命を断たれた精神的苦痛は甚大であって、その慰謝料として八、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(二) 原告二郎及び同キサ子

(1) 治療費 各八六、三九〇円

(2) 葬儀費用等 各七九六、九七五円

(3) 慰謝料 各二、〇〇〇、〇〇〇円

長男である友和を奪われた右原告らの精神的苦痛は甚大であり、その慰謝料として各二、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(三) 原告二郎及び同キサ子は友和の父母であり、友和の右損害の二分の一宛を相続により承継した。

(四) 損害の填補

原告二郎及び同キサ子各自は本件事故による損害につき、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から、一〇、〇七一、五九〇円を受領した。

(五) 弁護士費用 各一、三五一、三二四円

被告らは本件事故に基づく損害賠償債務の履行に誠意を見せないので、右原告らは本訴提起のやむなきに至り、昭和五七年一〇月一三日、本訴を原告訴訟代理人に委任し、その着手金、実費及び報酬として請求金額の一〇パーセントを支払う旨約した。右原告各自の請求金額は右(二)(1)ないし(3)の合計額に友和からの各相続分を加算し、右(四)の金額を控除すると一三、五一三、二四三円となる。従って、弁護士費用は右原告各自について一、三五一、三二四円となる。

(六) 原告小出由美

(1) 慰謝料 二、〇〇〇、〇〇〇円

原告小出由美(以下「原告由美」という。)は、良き兄であり、良き遊び友達であった友和の死により甚大な精神的苦痛を受けたので、その慰謝料として二、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(2) 弁護士費用 二〇〇、〇〇〇円

被告らは本件事故に基づく損害賠償債務の履行に誠意を見せないので、同原告は本訴提起のやむなきに至り、原告二郎及び同キサ子は、昭和五七年一〇月一三日、原告由美の法定代理人として本訴を原告訴訟代理人に委任し、着手金、実費、及び報酬として請求金額の一〇パーセントを支払う旨約した。従って、同原告の弁護士費用は二〇〇、〇〇〇円となる。

4  よって、原告二郎及び同キサ子は、被告ら各自に対し、一四、八六四、五六七円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和五七年一一月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告由美は被告ら各自に対し二、二〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年一一月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項の事実は認める。

2  請求原因2項の事実について

(一)(1) (一)の(1)の事実は否認する。

(2) 同(2)の(イ)、(ロ)の事実は否認する。

本件事故は友和が被告一郎の進行方向に向って右側の道路端に停車していた自動車の後方から突然飛び出したため発生したのであるから、被告一郎に過失はない。

(二) (二)の事実は否認する。

(三) (三)のうち、被告春夫が加害車を所有していた事実を認め、その他の事実は否認する。

3  請求原因3項の事実について

(一) (一)の(1)、(2)の事実は争う。なお、中間利息の控除方式としてはライプニッツ式を用いるべきである。

(二) 同(二)(1)ないし(3)のうち友和が同原告らの長男であることは認め、その他の事実は争う。

(三) 同(三)のうち、相続関係のみ認め、その他は争い、(四)の事実は認め、(五)の事実は争う。

(四) 同(六)の事実のうち、同原告が友和の妹であることは認め、その他の事実は争う。

三  抗弁

1  友和の過失

友和は、前記の如く加害車輛の進行方向の路上右側に停車していた車輛の影から路上中央に突然飛び出したものである。

2  原告キサ子の過失

原告キサ子は友和が路上に飛び出すことを制止しなかったのであるから、被害者側に過失がある。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実はすべて否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1項の事実は、当事者間に争いがない。

二  原告二郎及び同キサ子に対する責任原因

1  被告一郎

加害車が被告春夫の所有であることは当事者間に争いがない。そして、《証拠省略》によれば被告一郎は、本件事故当日、野球部の後輩を指導するため母校に行く途中被告春夫の家に立ち寄ったところ、その子であり高校時代の同級生であった訴外乙山夏夫にすすめられて加害車を借り、これを運転して本件事故を惹起したことを認めることができる。

右事実によれば、被告一郎が具体的に加害車を自己のために運行の用に供していたことは、その文言の通常の意味からして明らかである。

2  被告春夫

また、被告春夫は、前記の如く自動車と家族をもっていたことから、特段の事情のない限り、その家族と家族が使用を認めた者が、運転免許をもつ限り、加害車を使用することを許容していたと推認できる。そして、前記の如く、同被告の子である訴外乙山夏夫の承諾の下に被告一郎が加害車を借り本件事故を惹起したのであるから、被告春夫も抽象的に加害車を自己のために運行の用に供していたものといえる。(なお、従来使用されている運行の支配と利益の帰属という基準は無用のものと考えるが、この基準によるとしても、被告一郎には具体的な、被告春夫には抽象的な運行の支配と利益が帰属しているといえる。自動車損害賠償保証法三条の解釈として、運行供用者が単数でなければならない理由はない。)

3  被告太郎

《証拠省略》によれば、昭和五七年四月二五日に被告太郎が同原告らに対して「どんな償いでもさせて頂きます。」と発言した事実を認めることができる。《証拠省略》において、「私の方で全部責任を持ちますなどとは言っていない。」、「一郎が未成年なので本人に代って親として交渉する気持だった。」と述べているが、「一般常識の線で賠償することは申し出ました。」とも述べているので、同被告の右発言は自発的に親として被告一郎の損害賠償債務と同額の債務を負担する意思を表示したものと認めることができる。そして、同原告らが即時にこれを承諾したことも《証拠省略》によって認めることができるので、同被告は右内容の連帯債務を負担したと認めることができる。

三  原告由美に対する責任原因

同原告が友和の妹であることは当事者間に争いがなく、民法七一一条を類推すべき事情を認めるべき証拠もないので、被告らは同原告に対し、友和の死亡により生じた損害を賠償する義務はない。

四  損害

1  友和

(一)  逸失利益

本件事故当時友和が六才であったことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、同人は健康な男子であったことが認められる。そうすると、友和の就労可能年数は一八歳から六七歳までであり、昭和五六年度賃金センサスによれば男子労働者の平均賃金月額が金二三五、三〇〇円、年間賞与その他特別給与額は金八〇九、八〇〇円であるから、その年間総収入は三、六三三、四〇〇円であり、生活費としてその半分を控除すると、その額は一、八一六、七〇〇円となる。これからホフマン式により年五分の割合で中間利息を控除すると、友和の逸失利益は三三、四〇二、九三六円となる。(計算式 別紙計算表1のとおり。)

(二)  慰謝料

健康な男子であった友和が瞬時に若い生命を絶たれ、長い将来を奪われた精神的苦痛は甚大であり、その慰謝料としては一〇、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

2  原告二郎及び同キサ子

(一)  治療費

《証拠省略》によれば、原告二郎は友和の治療費として白岡中央病院に一六九、二八〇円を支払ったことが認められる。

(二)  葬儀費用

《証拠省略》によれば、原告二郎は友和の葬儀費用として合計一、六六九、五〇二円を支出したことが認められ、これは葬儀費用として相当な額といえる。

(三)  慰謝料

長男である友和を一瞬にして奪われた両親の精神的苦痛は甚大であるから、その慰謝料として各自金一〇、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

3  同原告らと友和との間の相続関係は当事者間に争いがないので、同原告各自は友和の前記損害の賠償請求権の二分の一を相続により承継したと認めることができる。

4  損害の填補

原告二郎及び原告キサ子各自が自賠責保険から保険金として一〇、〇七一、五九〇円を受領したことは、当事者間に争いがない。

5  弁護士費用

原告二郎及び同キサ子が昭和五七年一〇月一三日に原告訴訟代理人に本件訴訟の提起を委任したことは本件記録から認められるところ、本訴における被告らの応訴の内容から同原告らは原告訴訟代理人に委任して訴訟を提起せざるを得なかったものと推認でき、その報酬額は、原告二郎につき前記認容額の約一〇パーセントである二、三〇〇、〇〇〇円(計算式 別紙計算表2のとおり)、原告キサ子につき同じく二、一〇〇、〇〇〇円(計算式 別紙計算表3のとおり)が相当と認められる。

五  過失相殺の抗弁について

1  《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  被告一郎は運転免許を取得してから本件事故発生日まで約二ヶ月を経過したのみで、その間五、六回自動車を運転したことがあるだけであった。

(二)  友和は、加害車の進行方向の右側の路上に停車中の自動車の後方から道路の中央に約二メートル走って出たところ加害車と衝突した。

(三)  本件事故現場は団地内の道路上であり、子供が横断することは普通のことであり、とりわけ本件事故の発生日は学校の休暇中であって道路附近にいる子供や大人が多かった。

(四)  被告一郎は時速約三〇キロメートルで加害車を運転して本件事故現場に差しかかったが、道路の左側にいる大人五、六人と子供五、六人に気を取られ、右側に駐車している自動車の蔭から子供が走り出てくることは全く予想せず、走り出た友和を発見して驚き、ブレーキをかけることもハンドルを左に切ることもできないまま友和に衝突した。

2  右の状況の下では、被告一郎は加害車を運転するにあたり、幼児が走り出ること及び衝突すれば自分は安全であるが幼児の生命を奪い、或いは身体に重大な損傷を与えることは通常のことであるから、前方を十分注視し、幼児が走り出た場合には直ちに停止できる速度で運転し、幼児の生命、身体の安全を守る高度の義務を負う。そして、右の状況からみると、被告一郎は友和との衝突を避けることができたのであり、これを避けられなかったのは、専ら同被告の前方注視の不足、速度の出し過ぎ、運転の未熟によるものと推認できる。従って、本件事故に基づく損害額の算定について斟酌すべき過失は、友和にも原告キサ子にもない。

六  以上によれば、損害賠償として、原告二郎は金二五、七六八、六六〇円(計算式 別紙計算表4のとおり)とこれに対する本件事故発生日である昭和五七年三月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、同キサ子は二三、七二九、八七八円(計算式 別紙計算表5のとおり)とこれに対する昭和五七年三月二三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める権利があるから、同原告らの請求は全部認容すべきであり、原告由美の請求は理由がないので棄却すべきである。

よって、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菅野孝久)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例